浮世絵コンシェルジュ 畑江麻里

講演会と展覧会

2017年8月12日(土)某大学にて講師として招かれ、講演会をしました。

「広重墓所と浮世絵・伊興」

Ⅰ 足立の伊興と東岳寺

Ⅱ 歌川広重とは

Ⅲ 広重の描く浮世絵

 

 足立区伊興の東岳寺に、世界的に有名な浮世絵師・歌川広重の墓所があるのはご存知でしょか?

 広重の墓所がある東岳寺では、稲垣進一先生(国際浮世絵学会常任理事)が主体となって、広重の命日に当たる9月6日に「広重忌(一日だけの広重展)」が毎年開かれてきました。稲垣先生は母校の恩師でもあり、今回の講演会をお伝えしましたところ応援に駆けつけて下さり、スペシャルゲストとして特別講演もして下さいました。

 今回の講演会で取り上げた足立区北辺に位置する伊興は「伊興遺跡」や「白旗塚古墳群」などの存在が物語るように、足立区中で最も歴史のある地域です。足立区の他の地域が中世以前にその歴史を遡ることが出来ないのに対し、伊興は古墳時代(およそ1700年前)までその足跡を辿ることができます。

 伊興は江戸時代には伊興村一村であり、明治22年(1889)に町村制の実施時に、竹塚村・保木間村・六月村と共に渕江村となりましたが、明治24年に渕江村から独立して、新たに「伊興村」となりました。そして、大正12年(1923)の関東大震災後、罹災寺院が伊興に移転してきて寺町が形成され、集落の形が整いました。

 この罹災寺院の一つの東岳寺には、広重が眠る墓や、広重を海外に紹介した米国人のハッパーの墓、川柳の句集『俳風柳多留』を出版した花屋九次郎の遺跡碑などもあります。しかし「広重ゆかりの寺」ということはあまり知られていません。今回の講演会を皮切りに、より多くの方に「足立の広重」をお伝えできればと思います。

 ★今年も9月6日(水)の広重の命日に「広重忌(一日だけの広重展)」が開催されます。詳しくは、稲垣先生まで。

 

 講演会の後は、稲垣先生と浮世絵展「美人画名品選―春信・歌麿から芳年・周延まで―」を鑑賞しました。

 前回の7月29日に開催されたワンポイント講座「春信・歌麿の魅力―錦絵誕生からの江戸美人の展開―」に参加された稲垣先生。立ち見の方が出る程、定員数を大幅に上回りビックリした!!とおっしゃっていました。

 次回の9月2日(土)に開催される2回目のワンポイント講座「国貞・国芳から明治の美人画―歌川派美人、そして芳年・周延―」は早めにお席を確保した方が良いかもしれません。

 前期のオススメ作品を6点をご紹介したいと思います。ちなみに前期の展示は8月20日(日)迄です。入館料200円で春信や歌麿の作品を間近で見ることができるのはお得ですよね。図録も400円とお買い得です!

 

前期のオススメ作品①

喜多川歌麿《隅田川舟遊夜景》

『芸術新潮』歌麿特集の展覧会情報に取り上げられていたこの作品には、隅田川で舟遊びをする男女たちが描かれています。隅田川の納涼は、旧暦5月28日にはじまり8月28日に終わる年中行事で、期間中、多くの人々が納涼船で繰り出しました。歌麿は、屋根舟に乗る男女を三枚続の風景の中に描いており、その構成には先達である鳥居清長の美人群像からの影響が伺えます。近景の人物たちの生き生きとした表情を捉え、両国橋や対岸の夜景もシルエット的な表現でこまやかに描き出しています。

※絵師情報は図録に書いてあるのでここでは省略

前期のオススメ作品②

鳥文斎栄之《略六花撰 遍昭》 

長身細身の女性を全身像で描くことを得意とした栄之の作品の内、現存例の珍しい、クローズアップによる美人大首絵の作品。遊郭の女性六名を、平安時代の六歌仙に見立てたシリーズの一作で、背景を黄色一色で摺る「黄潰(きつぶ)し」の中に描かれた遊女の左上部に配されたカルタ札には、六歌仙の一人、僧正遍照(そうじょうへんじょう)の図と共にその歌「浅緑(あさみどり)糸縒(よ)りかけて白露(しらつゆ)を珠(たま)にも貫ける春の柳か」が記されています。

この作品は、「福笑い」になっています。4パターンある目・鼻・口の中から好きなものを選んで貼ったり、マグネットになっているのでマーカーで自由に描き込んで消したりすることができます。この日も子供たちが夢中で遊んでいました。

他にもトイレの鏡に「顔抜き」になっていたり、スタンプにもなっていました。

この実物が見られるのは前期だけ。

 

前期のオススメ作品③

渓斎英泉《時世美女競 東都芸子》

「女房」や「抱かかえ芸者」など、様々な職層の女性を描いたシリーズの内、江戸の芸者を取り上げた一作で、下唇に笹色紅を施し、真剣な表情で眉の化粧に余念がない芸者の姿が描かれています。着物は赤い縞模様の下に、精緻な「抱き合わせの蝶」紋様が施されていますが、後摺りのものになるとこれが水玉模様に変化していることから、本作は希少な初摺の作品であることがわかります。

この作品は、二階のトイレの顔抜きになっています。

前期のオススメ作品④

歌川国貞《扇屋内 花扇》

ベロ藍一色を主体とする「藍摺」による国貞の美人画です。妓楼「扇屋」で屈指の人気を誇った花魁「花扇」を題材としており、背景の黒、唇の赤、そして藍のわずか三色で、闇に浮かぶ桜の下、龍の帯に藤や蝶の柄が入った豪華な衣装をまとった花扇の姿が緻密に表現されています。

 

ベロ藍(ベルリンブルー)は、オランダ舶来の染料で、幕末期には中国などで安価に生産されたものです。鮮やかな発色が際立つこの新しい青色は、それまでの藍色(インディコブルー)とは全く異なるものであり、当初は上方で出版された版本類に部分使用されることも多かったとか。文政頃、ベルリンで開発された輸入染料「ベロ藍」は、日本においても安価に入手できるようになりました。

前期のオススメ作品⑤

月岡芳年《東京自慢十二ヶ月 十月 滝ノ川の紅葉》

名所として知られる滝野川(現 北区)の紅葉を料理屋から楽しむ日本橋の芸者八重(やえ)が描かれています。この店の名物なのか瓢箪酒に里芋を食しています。不動の滝や松橋など背景にこの地の名所をしっかり描きこみつつ、色鮮やかな紅葉と美人の姿が鮮やかな印象を与えます。

この作品は、展示室入口の「浮世絵版画における美人画 主要絵師の系譜年表」の横のパネルになっています。